第十章

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「当然です」 「でも、一にいなくなって欲しいとは思った?」 そう。 あの時、一が目の前に現れた時、翔太が高橋さんの写真を一に見せようとした時、何とかしないといけないと思った。 一徹がこの世に存在している限り、永遠に平穏は訪れないのではないかと、そう思った。 でも。 「僕は何もしていない」 「俺の発言は否定しないんだな」 僕は羽生刑事の言葉には返さず、「唐沢は何と?」と尋ねた。 唐沢輝が一を殺した? 荒唐無稽にも程がある。 「早川真帆という女性を知ってるな」 「はい」 「じゃあ、早川が唐沢と交際していたことは?」 「え」 何だ、それ? 「どうやら初耳のようだな。早川の交際相手は一じゃない、唐沢だ」 僕は何とか平静を保った。 そっと深呼吸を挟んで、「へえ、そうなんですか」と事も無げに答えた。
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