第十章

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「三池が一と早川さんが付き合ってたようなことを言ってましたけど、間違いだったんですね」 そんなはずはない。 第一、それならば一徹が死ぬ理由がない。 まさか、本当に唐沢が殺したとでもいうのか。 「三池航平がそう勘違いしたのは、早川の手帳に記された『わんちゃん』の文字と、ボタンが原因だった」 「わんちゃん?」 「聞いたことあるか?」 「何をですか。わんちゃんって、犬のことじゃないんですか」 口角を上げた羽生刑事は「それが正解だ」といって、食事を口に含んだ。 「どういう意味ですか」 訳がわからない。 「一徹が中学時代『わんちゃん』というあだ名を持っていたことは?」 あだ名? 「知りません」 「そう。あだ名といってもそう浸透していたものじゃない。高校の同級生に何人か当たったが、誰も知らなかった」 「あの、一体何の話ですか」 惚けているわけではない。 本気でわからない。
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