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そんな必要はないのに、その時の一徹の心情を慮ると、苦しくなる。
一徹。
あいつは、最初から最後まで僕をただの同級生として扱った。
悪いやつじゃない。
何も知らないが、それくらいのことはわかるつもりだ。
「それで?唐沢と早川が付き合いだした?」
「そう。しかし、それでも一は早川のことが諦められなかった。と言っても、露骨にアタックしたりしたわけではない。ただ、二人の良き友人として振る舞い続けた。そうして時が過ぎ、お前らが高三の二月、ある事件が起きた」
どくんと、心臓が跳ねた。
「早川が襲われた」
なぜ、と言いかけた言葉を飲み込んだ。
早川真帆も一徹も、もうこの世にはいない。
それなのに、どうして。
「深夜、コンビニでアルバイトをしていたお前は、一を早川の彼氏だと勘違いして電話で呼び出した」
早川や一本人が日記でも書いたかのような正確さだが、まさかあの日のことをそんなに克明に記述して残したりはしないだろう。
当然僕は誰にも話していない。
あの時、僕らの他にあそこにいた人間はたった一人、僕と一緒にアルバイトをしていた山崎さんだけだ。
そこまでするのかと、一瞬、背筋が凍った。
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