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夢が破れた今、僕はなんとなく生きている。
学校に行き、授業を受け、友達と話をして、引退した部活を覗き……。
以前は……夢があった頃は、毎日が輝いて見えた。
充実していたんだ。
だけど、今はもう……。
「ねえ」
放課後、教室で一人ぼけっとしていると、誰かに声をかけられた。
横目で見ると、そこにはクラスメートの女子。
長い黒髪をポニーテールにまとめ、前髪が目にかからないようヘアピンを付けている。
佐津川香乃(さつがわこうの)っていったかな。
普段、あまり交流はないけど。
「……なに?」
「あのさぁ、確か君、教室でラノベ読んでたよね?」
「それが?」
「『迷ったキャットが走りすぎ!』読んでたでしょ?」
その言葉を聞いて、身体が反応してしまった。
「あー、やっぱり」
佐津川は確信を持った事が非常に嬉しいらしく、きゃっきゃと喜んでいた。
というか、やめて欲しい。
今、その名を聞くだけでも苛々するんだ。
当然、言わなきゃ伝わらないけど、そんな事、言いたくない。
「……だからなに?」
これ以上あの作品の話なんかしたくない。
佐津川の反応を見るに、もしやこいつは『迷ったキャットが走りすぎ!』のファンなのではないだろうか?
僕があの作品を教室で読んでいた事を問い詰めてきたあたり、仲間を見つけたと思っているのかもしれない。
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