考察日記

2/6
前へ
/15ページ
次へ
夢が破れた今、僕はなんとなく生きている。 学校に行き、授業を受け、友達と話をして、引退した部活を覗き……。 以前は……夢があった頃は、毎日が輝いて見えた。 充実していたんだ。 だけど、今はもう……。 「ねえ」 放課後、教室で一人ぼけっとしていると、誰かに声をかけられた。 横目で見ると、そこにはクラスメートの女子。 長い黒髪をポニーテールにまとめ、前髪が目にかからないようヘアピンを付けている。 佐津川香乃(さつがわこうの)っていったかな。 普段、あまり交流はないけど。 「……なに?」 「あのさぁ、確か君、教室でラノベ読んでたよね?」 「それが?」 「『迷ったキャットが走りすぎ!』読んでたでしょ?」 その言葉を聞いて、身体が反応してしまった。 「あー、やっぱり」 佐津川は確信を持った事が非常に嬉しいらしく、きゃっきゃと喜んでいた。 というか、やめて欲しい。 今、その名を聞くだけでも苛々するんだ。 当然、言わなきゃ伝わらないけど、そんな事、言いたくない。 「……だからなに?」 これ以上あの作品の話なんかしたくない。 佐津川の反応を見るに、もしやこいつは『迷ったキャットが走りすぎ!』のファンなのではないだろうか? 僕があの作品を教室で読んでいた事を問い詰めてきたあたり、仲間を見つけたと思っているのかもしれない。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加