『二』

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『二』

相変わらず『それ』はプライドを傷付けていた。容赦しないその行為には憎悪がたぎる。「へし折って、炭にしてやる。いや、トレーラーでひき殺してやろうか」私なりに目一杯に悪態をついてみたが『それ』は馬鹿にするだけ。ここまで来ると、呆れてくる。憎悪が愛着に変化している。いや、気のせいだろう。勝ち組の私が竹馬ごときの竹の屑に愛着を持つはずがない。 乱暴に『それ』に乗った。 不思議なことに綺麗に乗れた。 それに清々しい。強風が私の傍らを通り過ぎる。しかし、倒れはしない。竹馬の脚が地面に突き刺さっているのではないかと疑ってしまう。刺さってはいない。歩みを進めても自分自身の脚で歩いているような錯覚が襲い、違和感のないことに違和感を覚えていた。それは『それ』が受け入れてくれていることを意味しているのだろう。 同時に私も『それ』を必要としていることを意味しているのかもしれない。 認めたくはないが。 ふと空を見上げれば小鳥が頭上を通過する。初めて此処を山奥と認識し、ありふれた自然の数々に魅了され、堪能した。体中の神経を駆使して堪能する。元々は不便な自然を嫌い、便利な人工物を好んでいた。今やその気持ちは逆転した。今まで人工物の最中にいたことに恐れすら覚えさせる。不意に『それ』から草藪へと投げ出された。それは心地良く、嫌悪を感じさせなかった。草藪に倒れ込みながら余韻に浸っていた。もっとこうしていたい。けれどこの小さな願いは儚いことに叶いはしない。なんと悲劇な事だろう。 「おいっ!お前はまたサボっているのか。早く持ち場について働け!!社長の息子らしいが私は社長に厳しく接するように言われているんだ。だから、さっさと働け!!」 監督者が視界に入るとそう言い放ち、草藪の中へと消えた。此の仕事は私に合わないと悟った。自然を愛し始めた者に破壊行為は出来ない。例え社長の椅子を捨てることになってもその椅子に座ることは無意味に感じられた。              〉
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