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『三』
「お前が竹馬に乗って、何処に行こうがもういい。勘当されに社長に辞任しに行け。その約束が出来るなら外出の許可をだそう。好きに野山をかけるといい」
私は直ぐにでも旅立ちたかったので頷き、山を滑るように駆け下りた。振り返れば彼等の姿は見えなくなっていた。
急斜面を駆け下りても恐怖すら感じない。寧ろスリルを味わい興奮した。果たして私の人生にこれほど興奮することがあっただろうか。いや、ないだろう。決められた線路に沿って人生を歩むことに抵抗はなかったが、いざ踏み外してみると開放的になり、自由を得、快楽を得た。
父がこの快楽を味合わせてくれようとしなかったのには恨めしいが、きっとその快楽は毒なのであろう。どっぷり漬かれば漬かるほど抜け出せなくなる。いつかこの快楽から抜け出せなくなり、自我を忘れ、欲求を制御出来なくなる。そう考えれば線路を引いてくれた父に感謝する必要がある。結局、踏み外し、快楽の虜となってしまったが。
今まで進めていた歩みが止まった。目の前にはトンネル。これが私にとって最初の障害物であろう。風が妙に生暖かく私を引き込もうとしている。
「急かすな。直ぐに行く」
急に風が止んだ。前からは小さな灯り。少しずつ近付いてくる。その時私は死を覚悟した。が、眼前には車。私はそそくさと車の道から退いた。また風が引き込もうとする。勢い良く中に入った。
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