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飯田は走っていた。
呼吸は乱れ、汗が吹き出していたが、それでも、足を止めない。
彼は警視庁捜査一課の捜査員である。 しかも、年齢は34歳と、一課の中で比較的に若い方だった。
それもあり、体力を使う仕事は飯田が率先することが多かった。
現に今も、先頭をきっている。
飯田の目の前には、ある事件の容疑者が走って―逃げていた。
連続女子大生殺人事件の容疑者、新沼拓也だ。
新沼は最初の被害者のストーカーだった。
他に殺されたのが、最初の被害者の友人ということもあり、前々から目をつけていた。
そして、今日。事情聴取の為、新沼の家に出向いたが、そこには、彼の姿はなかった。
慌てた飯田達は近くを探し回った。
新沼のアパートから数十メートル離れた商店街に、彼はいた。
飯田は迷わず、新沼に話し掛けた。
そして…。
今に至る。
気づくと飯田の近くには、誰もいなくなっていた。
先輩刑事は言うまでもない。
しかし、妙だ。
昼間の商店街に誰も居ないのだ。
それどころか、店がひとつも空いていない。
ただ、新沼と飯田の地を蹴る音だけが、聞こえた。
そうは思っても、飯田は気にしない。
今はただ、新沼を追いかけるだけだ。
飯田は気力だけで走っている。相手もその筈だ。
だが、新沼の動きも奇妙だった。
肩で息をしていない。走るペースも良いリズムを刻んでいる。
ホントに疲れているのか。
少しずつ疑念を抱いていた。
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