枡喜屋にて

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「それは、、」 先程までの勢いが嘘の様に沖田は口ごもった。 「もう何度も言わせて頂きましたが、、もうその御刀は休ませてやったら如何ですか? 研師の喜助も申しておりました。今回の研ぎで、完全に地金が出てしまったと、、もうどうやっても研ぎ様がないと、、」 「その、、枡喜屋さん、、ご心配はありがたい。 ですが、その刀は当家伝来で、江戸を出た折からずっと、、」 「沖田さんが、その御刀にひとかたならぬ愛着をお持ちなのはよくわかっております。 ですが、捨てろと申しているのではありません。 別の御刀とお取り替えなさいと申しているのです」 伊平の言葉は、あくまで静かで諭す様な響きだった。 「今の御刀では、、お勤めに障りがあるのではありませんか?」 「!、い、、え、別に」 沖田は言い繕おうとして果たせず、僅かに視線を泳がせた。 「その御刀で、もし斬り合えば、、おそらく初太刀で折れましょう。 そうなったら、どうされます?」 「そ、それでしたら脇差しでこう、、」 剣の天才を謳われるこの男にしては、脇差しを抜く振りを見せる動作がなんともぎこちない。 「私は、剣術は素人ですがね?その言い訳は通用しませんよ」 「いや、、その、、言い訳という訳じゃ」 「こういう言い方をすると、沖田さんは気を悪くされる事は重々承知しておりますが、敢えて言わせて下さい」 言い淀む沖田を正面から見据え、伊平は静かに語り始めた。 「『刀は武士の魂』と言われます。 こんな商いをしておりますから剣が武士としての心構えや気概を支える大事な物だと言う事は、重々承知しております」 「でしたら、、」 言いかけた沖田の言葉を伊平は軽く右手を上げて制した。 「ですがね?仮に心が守れても、御身が守れなければ、意味はありますまい? 国元には、お姉様がおられるのでしょ? 沖田さんの身に何かあれば、お姉様が悲しまれる。 剣も、その役目を果たせなければ悲しむのではありませんか?」 伊平の言は正しい。 まったくの正論であり、それゆえに沖田は反論できなかった。 「うちの様な小店には、沖田さんの様な名人、上手の眼鏡に叶う物はないかもしれません。 ならば、他で求められても構いません。 ですから、その御刀はお変えください」 伊平は、深々と頭を下げた。 「枡喜屋さんっ!顔を上げてください」
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