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相手は『悪名高い』新選組である。
貸し出す以上、まともな状態で戻ってくると信じる方がおかしい。これほどの物を貸し出しておきながら、ほとんど貸賃も取らず、自分の所で買わずとも良いから、刀を買い替えろと言っているという。
沖田の身を案ずるその言葉に嘘はない様に思えた。
土方自身は、枡喜屋本人にはまだ会った事はないが、どうやら目先だけで動く凡百の商人とは違うらしいと認識を改めた。
それにしても、、
他人様に心配をかけさせている当人に、その自覚はあるのか?
土方の顔色を見て神妙そうな顔をしているが、腹のうちでは、さして反省などしていまい。
「沖田ぁ、、法度の一番目を言ってみろ」
「はぁ?」
土方のいきなりの問いに、沖田は些か面をくらった様だった。
「はぁ?じゃねぇ法度だ!よもや、、忘れた訳じゃあるめぇな?」
「一つ、、士道に背くまじきこと、、」
土方は、何を今更といった風情の沖田を一睨み。
「わかっている様だな?沖田『君』!君は士道不覚悟につき切腹を申し付ける!直ちに身辺を整理したまえ」
「土方さ、、!いえ、、っ副長っ?!」
予想もしていなかった展開にうろたえる沖田を尻目に、土方は更に続ける。
「君は幹部であるので介錯人を指名する事ができる。但し局長自身は認められない」
静かな、それでいて鋭い口調で土方は言い放った。
「ひ、土方副長っ!納得できません!自分に、いつ『士道不覚悟』の行いが!?」
「わからねぇなんぞとぬかしやがるなら教えてやる!」
食ってかかろうとする沖田を一喝して黙らせると正座を崩し、胡座をかいて向き直った。
「伝来だか何だか知らねぇが、その刀にこだわって斬り死にしようと、そりゃ手前ぇの勝手!
『ただの』沖田総司なら、それもいいだろさ!
だがな?『新選組』の沖田総司なら話ぁ別だっ!」
「どう違うって言うんですかっ?!」
「そんな事もわからねぇか!?ならぁ教えてやる!
手前ぇが死んだその後で『その刀』を見た連中はこう吹いて廻るだろうよ!
『新選組の沖田は、会津様と近藤勇に、さんざ人斬りやらされて、最後は刀も買えずに惨めに使い捨てられた!』
となぁ!」
沖田は言葉を失った。
「いいか?武士ってヤツぁ、命大事じゃ勤まらねぇ!だがな?それは粗末にしていいって意味じゃねぇんだ!」
土方は、一旦言葉を切り、一呼吸おいて静かに続けた。
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