1・拓也

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「冷てぇっ!」 公園のベンチで寝ていた拓也は、顔に冷たい物が落ちてきて目を覚ました。 (なんだぁ…?) 「あっ、きったねぇ!」 落ちてきた物が鳥の糞だと気付き、慌ててベンチから立ち上がって近くの水飲み場で顔を洗う拓也…。 その光景を見ていた数人の女の子達が、クスクスと笑いながら拓也を見ている。 (何笑ってんだよ!) と一瞬思ったが、急に自分もおかしくなって、思わず笑いながらその女の子達にピースサインを出してみた。 女の子達は、一瞬顔を見合わせた後、今度は大きな声でゲラゲラ笑いながら立ち去って行った。 坂下拓也(さかした たくや)は今年19歳。 プロのミュージシャンを目指して、昨日北海道から上京してきた若者である。 最終便の飛行機で東京に来た拓也は、少ない所持金を極力減らさないようにと、昨晩は公園のベンチで寝る事にしたのだ。 が…おかげで東京最初の朝は、鳥の糞で起こされる事になってしまった。 「さてと…まずは住む所見付けなきゃな…。」 鳥の糞を洗い流した拓也は、ギターと着替えの入ったスポーツバックを持って、不動産屋を探す為に公園を出て歩き出した。 「ここでいっか…。」 雑居ビルの1階にある不動産屋を見つけた拓也は、けして立派とは言えない店舗に、多少ためらいながら入って行ったが…。 …5分後 「…こりゃあ、独り暮らしの女の子引っ掛けて、アパートに転がり込んだ方が早いかなぁ…。」 色々物件を探してみた拓也だが、北海道とあまりにも違う東京の家賃の高さに驚き、5分で不動産屋を出てきてしまったのだ。 これでは上京する為に貯めた30万円は、アパートを借りるだけでほとんど吹っ飛んでしまう。 「先に仕事探さないとダメかぁ…。」 コンビニでアルバイト情報誌を買って色々見てみると、寮付きの仕事があった。 (給料もそこそこ貰えそうだし、これにしてみようかな…。) 拓也が見つけたのは、ソープランドのボーイの仕事。 (ロックミュージシャンのサクセスストーリーには、こんな仕事するのもエピソード作りには良いかもな…。) などと脳天気な事考えながら電話をしてみる。 電話→面接→採用と、ほとんど何も会話する事なく採用が決まった。 (…こんなんでいいの?)
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