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「おっ、どうした?」
「別に…ヒマだからなんとなくオヤジの顔見に来た…。」
いつもの楽器店。
バイトが休みの陽美がふらっとやって来た。
「この前のライブ、良かったな。」
コーヒーを差し出しながら言う店主に
「見に来てたの?
声ぐらい掛けろよ。」
と、ぶっきらぼうに言った。
「途中で帰ったからな。」
「そっか…
で、どうだった?」
「良かったって言ったじゃねぇか。」
「そうじゃなくて、具体的になんか無いのかよ?」
「具体的にねぇ…
ま、初ライブにしては上出来だったよ。
もう少し"客を楽しませる"って事を意識した方が良いけどな。」
「そっか…。」
何やら考え込んでいる陽美に
「ずいぶん元気無いな?」
店主は自分もコーヒーを飲みながら言った。
「…打ち上げにスカウト来てさ、これからの活動をバックアップしてくれるって話しになったんだ。」
「ほ~、良かったじゃねぇか。
じゃあなんで元気無いんだ?」
「なんか旨く行き過ぎて…ちょっと不安なんだよね…。」
「らしくねぇな。
お前達の音聴いたらスカウト動いても不思議じゃねぇよ。
考え過ぎる事無いと思うぞ。」
「そうかなぁ…
確かに、音には自信あるけどね…。」
まだ釈然としない様子の陽美に
「お前はな、今まで…3年以上もバンドで旨くいった事が無いからな…
慣れて無いんだよ。」
「そうかもしれないね…。」
「まだ始まったばかりだし、今はこのまま突っ走ってりゃ良いんだよ。」
「そうだな…ありがとう。
なんかスッキリした。」
ニコッと笑う陽美に
「いつもそおゆう女らしい顔してりゃあ、拓也ともケンカしなくて済むんじゃないのか?」
「大きなお世話だよ!
アイツが頭にくる事ばっか言うから悪いんだよ!」
陽美はまた仏頂面に戻った。
「ステージだと仲良さそうだったけどな。」
「そっか?
なんか楽しくて仕方なかったんだよね……練習でもギター弾いてるアイツには腹立たないし…。」
「若いな…。」
そう言って微笑む店主に
「気持ち悪いな…なんだよ?」
しかめっ面で陽美が言うと
「何でもないよ。
とにかく…拓也は放すなよ。
お前にとって最高のパートナーだ。」
「あぁ…にくったらしいけど、あんなギターは他に居ないからね。」
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