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「私は遊びで歌ってるわけじゃないんだよ!」
「なにぃ!お前はちょっと歌えるからって生意気なんだよ!」
「うるさい!そっちこそマトモな演奏も出来ないくせに偉そうな事言うんじゃないよ!バカらしくてやってらんない!バイバイ!」
鈴本陽美(すずもと はるみ)は、プロのボーカリストになる為、3年前に青森から上京してきた、今年18歳の女の子。
歌う事には天才的な才能を感じさせるが、とにかく勝ち気で頑固。
少しでも納得出来ない事があると、もう我慢が出来ない…という性格が災いして、バンドが長続きした事がない…。
なんと3年の間に12ものバンドを転々として、未だに東京でのライブ経験無し…。
今もスタジオ内で、昨日の合コンの話しに花が咲いてるメンバーに怒りを爆発させてバンドを辞めてきたところだ…最短記録の2週間。
(あぁ~…またやっちゃった…けっこう良いバンドだったんだけどな…。)
今回のバンド、音楽的にはけっこう気に入っていたので、少し辞めた事を後悔しながらタバコに火を付けた。
「ふぅ~…。」
「納得出来ないもんはしゃあないし、またバンド探すしかないな…。」
公園のベンチで空を見上げながらため息をつく陽美。
「ヒマ?」
空を見上げていた陽美が振り返ると、ギターを背負った若者が、怪しい笑顔を浮かべながら陽美を見てる。
(ナンパ?ウザイな…)
「…忙しい。」
めんどくさそうに答える陽美。
「え?そうは見えないんだけど?。」
「なんだよ?ナンパなら他行って!」
「いや、ナンパじゃなくてスカウト。」
「スカウト?何の?…どっちにしろ関係ないけどね。」
「バンド組みたくてさ。ネットでメンバー探してるんだけどなかなか応募なくて…この際手当たり次第に声かけて才能ありそうな人探してみようかなと思ってさ…歌上手い?」
「はぁ?
…上手いけどね。アンタみたいなチャラい奴じゃなくて、もっとマトモな人と組むよ!」
「えっ、バンド探してんの?
ならとりあえずちょっと歌ってみてよ!」
「だからぁ、アンタみたいな奴とは組む気無いからあっち行って!」
合コン好きのメンバーへの怒りを抑えられずにバンドを辞めてきたばかりの陽美にとって、もっとも相手にしたくないタイプの人間である。
「アンタが行かないなら私が行くよ!付いてきたら殴るからね!」
陽美はベンチから立ち上がり、若者をひと睨みしてから足早にその場を立ち去った…。
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