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「お世話になりました。
短い間でしたが、可愛がっていただいてありがとうございました。」
今日でファミレスのバイトを辞める拓也が、店長他スタッフに頭を下げながら挨拶をした。
「次のバイト先でも頑張れよ。」
「デビューしたらCD買うからな!」
先輩達も優しく声を掛けてくれる。
「はい!ありがとうございます!
じゃあ、お疲れさまでした。」
拓也は深々と頭を下げてから店を出た。
「今度は肉体労働だな…。」
来週からは大工の下働きのバイトが決まっていた。
「拓也く~ん!」
足を止めて振り返ると、彩子が走りながら手を振っていた。
「はぁはぁ…足…早いね…。」
息を切らしながら彩子が手を差し出した。
「これ…もらってくれる?」
見ると、彩子は手に小さな紙袋を持っていた。
「何ですか?」
「今日でお別れだから…プレゼント。」
「ありがとうございます。」
そう言って、拓也は紙袋を受け取った。
「開けてみて。」
中を見ると、ギターのストラップが入っていた。
「ありがとうございます。
今まで使ってたのボロボロになってたから、新しいの買おうと思ってたところなんですよ!」
「喜んでもらえて良かった!」
「嬉しいです!
大事に使いますね。」
笑顔でそう言う拓也に
「もうバイトの先輩じゃないんだから、敬語はやめよ。」
彩子はちょっと淋しそうな顔で言った。
「でも年上だし…。」
拓也の言葉に
「学生じゃないんだから、1つや2つの年の差は関係ないよ。」
「そうですか…?」
「そうだよ!
だから敬語禁止。
さん付けも禁止。」
「わかりました。」
「わかったよ…でしょ?」
「はい…じゃなくて…うん。」
二人は顔を見合わせて笑った。
「じゃあ、元気でね。
ライブやる時は必ず教えなきゃダメだよ。」
「はい…うん、必ず教えるよ。
彩子も元気でね。」
そう言って歩いて行く拓也の後ろ姿を
(彩子かぁ…ちょっと嬉しいな。)
彩子は幸せそうな顔で見送っていた。
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