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「坂下君、今日バイト終わったら、みんなでカラオケ行かない?」
声をかけてきたのは拓也のバイト先の先輩、杉本彩子(すぎもと あやこ、21歳)である。
彩子は、ひと月前に入ってきた拓也の歓迎会を兼ねて、他のバイト仲間とのカラオケを企画したのだ。
「いいっすよ。俺も東京出てきてから、あんまり楽しい事なかったし、なんか気晴らししたいって思ってたから嬉しいっす。」
「そっか、良かった!じゃあみんなにも言っておくね」
彩子は満面の笑顔で小走りにホールへ向かった。
「では、ひと月遅れの坂下君の歓迎会ということで…カンパ~イ!」
「歓迎会?なんか申し訳ないっす。でもありがとうございます。」
突然歓迎会と言われて戸惑った拓也だが、みんなの気遣いに感謝しながら、東京に来てから初めての楽しい時間を満喫していた。
2時間ほど経った頃、拓也は席を立ってトイレに行った。
その帰り、ふと耳に入ってきた隣りの部屋の歌声が拓也の足を止めた。
(…こいつ凄い!どんな人が歌ってるんだ?)
思わずドアの中を覗き込んだ拓也は…
「あれ?あの女…?」
(この前のヤツみたいなのがいるから、私みたいに真剣に歌ってる人間が迷惑するんだよ!)
陽美はカラオケボックスで歌いながら、ふと公園で自分に話しかけてきた男の事を思い出して、独りで腹を立てていた。
陽美は、喉を衰えさせない為に、バンドの練習が無い日は独りでカラオケに来て歌うのを日課にしていたのだ。
ふと気が付くと、窓から覗いてる男がいる。
(…誰?)
歌を中断して窓を見てると、その男がドアを開けて入ってきた。
「あっ、この前のチャラ男!なんだよ!?勝手に入って来んなよ!」
「歌、めちゃめちゃいいよ!こんな凄いボーカル初めてだよ!一緒に頂点目指そう!」
相手の言葉など耳に入っていない拓也は、陽美の手を握りしめながら言った。
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