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その日、俺はそいつと一緒に学校に向かっていた。
入学して1ヶ月。まだまだ慣れる事はできない高校生活。それでも少しずつ馴染んでいき、ようやく肩の力が抜けていく頃。
「……一ノ瀬」
「ん? どうした?」
俺は1歩後ろをついてくるそいつにそう返した。振り返ると自分より20センチ近く小さい背丈の女の子が目に入る。
「……さむい」
「そうか? 俺は寧ろ暑いぐらいだけどな……」
そいつの長い黒髪が風に揺られてふわふわと舞っているのを見ながら俺はそう答えた。寒がりのこいつにはまだこの気温でも寒いらしい。証拠に5月だと言うのに首には薄ピンク色のマフラーが巻かれている。
それからは無言で学校に向かっていく。
こんな空気が好きだった。こいつが俺についてきて、何か話す訳でもなく、それでも何となく一緒にいる感じ。
ただ、何となく寄り添っている感じ。
でも、そんな時間は簡単に壊れてしまう。触れただけで砕けてしまう、シャボン玉のように。
交差点から猛烈なスピードで迫ってくるそれに気付くのに、俺は一瞬遅れた。
「冬魅! あぶな……!」
声をかけると共にそれにぶつかり視界から飛んでいくそいつ。
抵抗無く、虚しく空を舞うように飛んでいくそいつ。
遅かった。
「ふ~ゆみぃんっ!」
今日もいつもの日常が始まってしまったか……
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