ゆきやなぎ

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「折れてるかもしれないし、とりあえず。おひいちゃん。」 「はあい。」 ひいがのんびりと返事をした。 のそのそと藤堂に向き直り、上を脱ぐように言う。 藤堂はおとなしく、ただ殆ど左腕を動かさずに着物をはだけた。 腫れて赤くなった左肩が露になって、永倉は顔をしかめる。 「ちょっと触りますよ。」 ひいの手が触れると藤堂は少しだけ眉根を寄せた。 「多分折れてはいないですけど、動かせますか?」 「動く。」 初めて藤堂が言葉を発した。 きっぱりと言われた三文字にひいは頷く。 「ひとまず湿布をしましょう。一番折れやすい鎖骨は無事ですし、打撲ですね。鎮痛薬も準備しますから、ちょっと待っててください。」 とりあえず毎朝汲んで置いといている瓶の水で手ぬぐいをぬらして赤い腫れを冷やす。 ひいは薬棚の前にちょこんと座ると、いくつか棚を開けて粉末やら乾燥物やらを取り出して盆の上に並べだした。 そのカタリカタリという音だけが響く。 何ともいえぬ沈黙を打開しようと晋太郎は顔をあげたが、永倉と目があっただけで、実行には至らなかった。 意を察して、永倉が眠たげな目を細めた。 それから、まるで保護者のように藤堂へ優しい視線を向ける。 「平助、あの二人には俺が言っておくから、お前は余計なことは考えるなよ。」 「……わかってるよ。俺何もしなかったじゃん。」 「そうだね。偉い偉い。」 「だけど怪我してるじゃないですか。どうしたんです。喧嘩なんて藤堂さんらしくないですよ。」
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