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台所で湯がわくのを待っていると、沖田がぱたぱたと駆け込んできた。
晋太郎の姿を見て、よかった見つけた、というような顔をする。
いつも通りの困った表情はより一層眉を下げているようにも見えた。
「加減はいいんですか、走ったりして。」
「ありがとう、大丈夫。それより平助どこか知ってる?なんか亀太郎くんと十五郎くんと喧嘩したって聞いて……。」
あの二人と?
晋太郎は軽く顔を歪めた。
嫌な感じしかしない。
あの時の表情がよみがえって、更に顔をしかめる。
「さっき医術所に来て肩の治療をしていきましたよ。大したことなさそうですけど。」
「平助だけ?」
「はい。その二人は来ませんでしたよ。手、出してないって言ってました。」
「そっか…。」
沖田がほっと息をついた。
明らかに安堵とわかるため息に、晋太郎は問う。
「藤堂さんは喧嘩したら手を出す方なんですか?」
「ううん、全然。だけど今回は出したんじゃないかなって思って…。」
沖田の丸い繊細な目が伏せられる。
ひどく動揺しているようだった。
それと同時に、かなり心を痛めている。
藤堂のことでこんなに沖田がしょんぼりする所以が、あるのだろうか?
「あの…」「!晋太郎くん、ヤカンふいてる!」
「うわっ!」
ぶしゅう、と不細工な音をたてて噴き出すヤカンを慌てて降ろす。
少し冷まさねばならない。
その、沖田が立ち去ろうか去らまいか躊躇した結果生じた沈黙を晋太郎が破る。
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