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「喧嘩の原因って…何なんですか?」
「……。」
沖田はわずかに目を丸めると、言おうか言わまいか迷っているという表情をした。
あまりの露骨さに、きっとそれが藤堂という人物の中枢に食い込むのだろうと直感する。
そしてそのことを何故かの二人が知っていたのかとの疑問もよぎる。
そうこうしているうちに、沖田がひどく静かな声で言った。
「平助は、伊勢藤堂家の血をひいてるんだ。」
たった一言が、うったいしていた気を吹き飛ばす。
しかしそれは更なる暗雲を持ち込んだ。
反芻も復唱もする気になれない。
ただその言葉の持つ破壊力に目をみはる。
「でも正室の子じゃなくて、もっと身分の低い人。」
眼を震わせるながら沖田がつなげた言葉は、そうでなければいいという淡い願いと裏腹に容易に想像できていた。
台所のキンキンする冷たい空気が、肌理の隙間を縫うようにしみこんでくる。
氷の分子がさわさわと溶けてゆく。
ヤカンからあがる白い煙すらも、最早凍てついてみえた。
「…平助はそれをずっと隠してた。平助が試衛館にきた時も随分…神経質に生まれとか過去の話はしなかった。もしかしたら平助はその事実をずっとずっと拒んできたのかもしれないよね。」
伊勢藤堂家は、戦国時代築城の名手であった藤堂高虎を開祖にもつ由緒正しい家系だ。
藤堂平助は確かな武家の血をひいている。
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