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知らない方が幸せなこと、は世の中には予想以上にたくさんある。
知らないうちは、温めても孵らない卵をいつまでも懐にいれているのと同じだろう。
それでも幸せでいたいなら、知らない方がいいのに。
それがまかり通らないから、人生は不幸なんだ。
「聞いてんのか平助!」
土方さんの怒鳴り声で視線をおこす。
その主を捉えれば、いつもの土方さんの真っ直ぐな瞳がある。
それが今は至極気に入らなかった。
この人の強さがむかつく。
今なら浪士たちが土方さんを異様に毛嫌いする意味がわかる。
自分に自信がなければない状態の時ほど、この人の何にも依存しない真っ直ぐな芯がとてつもなく強大なものにみえる。
怖くなるんだ。
だから否応なしに虚勢をはる。
そんなの、この人の前じゃ通用しないのにさ。
「…聞いていますよ。」
「ならどう始末をつけるつもりだ。安い挑発にのって幹部が揉め事をおこす、それで…」
「安い挑発?」
無意識に声に力が入った。
土方さんも失言したと思ったのだろう、一瞬だけ瞳に不安定な揺らぎが生じた。
何だよそれ。
結局同情かよ。
「藤堂の大殿が卑し女に生ませた子が、雑兵の大将気取りだ。武家の風上にはおけやしないからね。」
「平助。」
「そう言われて何も感じない人間がいたら、お目にかかりたいよ。」
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