ゆきやなぎ

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土方さんが冷たい瞳の奥にはっきりとした怒りを覗かせている。 すっと背を向けて床の間に近づくと、ノサダを片手に見下ろしてくる。 その怒りは何に向いているの? 怪我をしたから? 避けれたのに避けなかったから? 何故避けなかったかなんて、 「ッおい土方さん!!」 何故避けなかったかなんて、 「やめろ!!!」 ー…自分だってわかんないのに。 「やめろ!!!」 間に入ろうとした永倉の怒号が銀の刃を震わした。 冬の冷気をまとった刃が鋭い光沢を一直線上に走らせる。 その直線上には一寸すら満たずに人間の急所たる構造物が存在する。 全てのものが微動だにしない空間は、ただ一人の呼吸もきかれない。 鬼の副長土方が滅多に抜かない愛刀を鮮やかな抜刀術で冷気にさらしたとき、その激しい睨み合いが刹那たりともぶれることはなかった。 互いの瞳の奥底にあるものが憎い。 まるで埋まることのない両者の意識の差を切り捨てるように、土方の鋭利なる刃は藤堂の首皮手前で止められていた。
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