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永倉が叫んだ口の形のまま、その苛烈な視線の戦いを見つめる。
あれほどの速さで刀を振るわれて全く動じない藤堂の、憎悪と憤怒に支配された眼差しに身震いを覚える。
ー…平助……。
あの小さな身体に、いつも自信満々な彼に、一体どれだけの憎しみと怒りとがこもっているんだ。
全身のどこからとなく湧き出る汗が冷たい。
ー…本当に、平助なのか。
そんな根本的なことすら疑うほど、永倉は困惑していた。
土方の怒りの姿形は圧巻だが見慣れている。
だが、藤堂があれだけ、我を失うほど激しく怒りに支配されたのを見たことがない。
試衛館時代に同じ話題になった時ですら、いやあの時は不機嫌になっただけで、こんなにキレたことはなかったはずだ。
あれは世の中万物に対する怒りだ。
憎しみで、恨みそのものだ。
あんなものを、見たことがない。
そもそも永倉には藤堂を理解し受容している絶対的な自信があった。
にも関わらず、だ。
彼はひどく動揺していた。
言葉、いや吐息ひとつすら排出されない。
これが平助なのか、という恐怖に似たものが、永倉の頭の中をぐるぐるとまわっていた。
「……何故避けねぇ。」
全てを見透かしたような、落ち着いた声音で土方が問う。
相変わらず爛々と燃えるような目はしていたが、同時に藤堂の気持ちを察しているような目もしていた。
むしろ察しているからなのだろう、土方の声がぶっきらぼうに響く。
「答えやすくしてやる。何故死にたがる?」
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