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「トシのやつ、道場破りしてるらしい。」
ある日、近藤さんが井戸端で他のお弟子さんと話しているのを聞いた。
俺は手のひらでパタパタと自分を扇いでいたのを、そっとやめた。
道場破りなんて、あの人なにしてるんだろうって不思議になった。
だってここでは絶対稽古をしてるところを見たことがないし、何より棒一本持ってるところすら見たことがない。
いつもあの重そうな商売道具を背負って、つまらなそうに、けれど隙のない目をして黙っていた。
それが、道具破りだなんて、おかしな話だ。
俺は小さなくせに精一杯気にして、でも大人の話に混ざるほど社交的でもなかったから、その日は何も聞かずにいた。
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