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翌日の稽古のときに、やっぱり土方さんはやってきた。
そして道場破りの話は、呆気なく足がついて、近藤さんは困ったようにしていたが次第にお腹をかかえて笑いだした。
「それで、負けてはいないんだろう。」
「?当たり前だろ。」
それなら、と近藤さんは土方さんを無理矢理道場にあげた。
初めてあがった試衛館の板の間で、土方さんは困惑しているように見えた。
いつもの大袈裟な商売道具が、不格好だ。
「いつまでもここに上がることを恥ずかしがることもないだろう。」
恥ずかしい?
俺は近藤さんの言う意味がわからなくて、何度も近藤さんと土方さんの顔を見比べた。
「宗次郎、トシの相手をしてみろ。」
いきなり言われて俺はひどくうわずった声で返事をした。
だけど土方さんは俺なんかよりもっとびっくりしたらしくて、丸めた目をしばらく見合わせてしまった。
「ほら、トシ。木刀。」
近藤さんだけが滑らかに事を進めていく。
土方さんは荷物をガタガタ言わせながら道場の隅に置く。
それを始終見ていた俺の視線に気づくと、気分を害したのか、いつもより鋭く睨んできた。
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