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「仕事があるから、毎日はこれねぇよ。」
少し、近藤さんの勢いに土方さんが笑ったように聞こえた。
俺はそうっと、影に隠れたまま、また見上げてみる。
「じゃあ、また。」
土方さんは重たい荷物を背負って、俺なんかには一目もくれずに行ってしまった。
「宗次郎、トシが明日から門弟になるって。」
「…あの人、どんなひとなのですか……?」
「そうさなあ……迂闊に触れると怪我をするイバラのような男だなあ。でも、その奥にはひどく純粋で、熱くて、真っ直ぐな目が生きている。」
俺は近藤さんの楽しそうな横顔を見上げて、本当にその通りなのだなぁと思った。
近藤さんの人を見る目は豊かで、子供の俺にはすべて正しく見えた。
薬売り、イバラの孤将、土方歳三。
それは俺が、いつかこの国の歴史に名を残す男の始まりに出会った瞬間だった。
それから土方さんはよく道場にあがるようになったが、どうしてか俺と会話をすることは間間ならなかった。
というか、やっぱり。
「土方さんってひとね、俺のこと嫌いみたい。」
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