はくぼたん(途中まで)

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俺がそうやって甘える相手は決まってる。 両親がいなくなったあの日から、異様に人の気配に敏感になって、それでも姉さんにだけはこの前後不覚な甘え癖が抜けなかった。 武士の子なのにだらしがない、そう姉さんは呆れながらも、俺の話は絶対聞いてくれる。 昨日俺が犬から逃げるためにのぼった木の枝で破いた袴を、姉さんは繕いながら笑う。 「何でよ?」 「だって、土方さん、口きいてくれないんだよ。」 「あら、無視されるの?」 「うーうん、無視とはちがうかなあ。あのね、近藤さんとか永倉さんは、俺に話しかけてくれるけど、土方さんはしないの。」 「へえ。じゃあ宗ちゃんが話しかければいいじゃない。」 「でも怖いもん。」 「無視されるかもしれないから?」 「うん。」 「そういう人なの?」 「違うと思うけど……。」 「宗ちゃんは土方さんが大好きなのねえ。」 姉さんは楽しそうに笑った。 俺は何が楽しいのかわからなかったけれど、姉さんが笑うならきっと間違っちゃいないと思った。 間違っていれば、姉さんはいまこの瞬間に立ち上がって、土方さんに問い詰めにいくだろうから。
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