ゆきやなぎ

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強い北風が吹いた日の朝、あまりの寒さに夜着をまとったまま原田や永倉がずるずる廊下を歩いていたのをみかけた。 「いきなり寒ぅなったー。」 晋太郎が挨拶すると力無い声で原田が弱々しく頭を垂れる。 「布団お化けだー!」 ひいがけらけらと笑うと、がおー、と脅かすくらいのひょうきんさは見せたが、すぐにしゅんと小さくなる。 永倉は原田ほどは痛手をうけていないようだが、表情に元気はない。 「永倉さんも寒いんですか。松前出なのに。」 「もうこっちに慣れちゃったからさ~。耐性なくしたよ。」 松前は北海道函館より南の町で、現在その過疎っぷりから陸の孤島といわれている。 しかし一番最初に和人によって開拓支配された北海道の土地といえば松前他ならない。 「でも今朝の見回りなくて良かったよな。」 「稽古場の寒さは屋外相当ですよ。」 「うわ~晋太郎、現実思い出させるなよな~。」 「動けば暖かくなりますよぅ。頑張ってくださいねっ。」 「冷えたらあっためてくれる?」 「懐炉作っときます!」 「そうじゃなくて…」 「原田さん、そういう冗談の理解をひいに求めても無駄ですよ。」 冗談じゃないのになーと布団にくるまって言う姿は至極寂しそうだ。 ひいはきょとんとして晋太郎を見上げる。 何でもねぇよと言うと、つまらなさそうに唇を尖らせた。 その仕草を最近よく見るな、と晋太郎が頭の片隅で思ったとき、もう一人のその仕草の持ち主が現れた。 途端、原田と永倉の姿を見て顔をしかめた。 「何その格好。」
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