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「流石晋太郎さんは何でもできますね。」
そんなことで感心されても興味がない。
晋太郎は腕組みをして突っ立っている亀太郎と十五郎の言葉にぴくりと眉をあげた。
鼻につく言葉尻と表情を咀嚼して受け入れるほど晋太郎の心は広くない。
むしろ狭いほうだ。
眉尻がその短気を現すように跳ね上がれば、本能は相手に詰め寄って首を絞めたいくらい。
だが環境が育んだ偉大なる理性というものがそれを制す。
じゃなければひいなどとっくに死んでいる。
晋太郎の自ずから静めたる怒りに共感しているらしい藤堂は苛立ちを隠さずに吐き捨てる。
「薪なんて割れて当たり前なんだよ。晋太郎が特別なわけじゃない。」
普段から意図せず舌の怪物を操る藤堂にしては、いたく直情的で浅い言葉だ。
晋太郎は薪を割り台の上に置きながらかの暴君の顔を見上げる。
「そんなものですか?いやぁ俺たち今までそういうの、したことないんです。」
言外に滲むのは、暗に自分たちが武家の出なのだという自慢だ。
出自雑多まみれる新撰組では、それでもやはり出自の良い者がそれを優越に感じているのも確かだ。
その筆頭が、この新入り亀太郎と十五郎。
斜にかまえた視線となめたような態度は、剣術も強いとはいえないくせにと幹部層の反感を買うに十分だった。
今みたいに雑用は決してやらない。
謙虚さのけの字もないのだ。
「じゃあできるようにすればいい。一度教えてもらってるんだから、お前らのそれはやったことがないんじゃなくて、できないんだよ。単なる能力技術不足の役立たずだ。」
暴君の正論責めは参謀のそれ同様逃げ場など作らない。
真正面から容赦なくたたきこまれる拳に脳震盪を起こしたらしい二人は面食らった間抜け面を数秒白昼にさらすことになる。
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