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「晋太郎が器用なのは努力しているからだ。自分が置かれた環境がどんなに苦しくてもめげずにそこで自分の存在の根を張ろうとする。お前らが環境に馴染めないのは自分のちっぽけなプライドを捨てられないからだろ。そんなもの守って新しい場所で何もできないなら、それはただのお荷物なんだよ。」
晋太郎はぽかんと口を開く。
藤堂の淡々とした、けれど妙な苛立ちを隠せない瞳ひ、瞬きすらしない。
まるで何か、その二人をこえた何かに苛立ちを覚えているかのような。
「これは大切な仕事なんだ。冬場に隊士全員が体調も崩すことなくきちんと隊務をこなせるように薪は必要不可欠なの、わかってない。そんな大事な仕事をもうお前たちには任せられない。」
二人もしばしそう口の塞がらない表情をしていたが、それを聞いて些かむっと眉を寄せた。
散々直撃しときながら、今度は暗に役立たずというその皮肉な手法は相手の自尊心をえらく傷つけるらしい。
「お前たちは、門の前で塵でも掃いてな。それくらいできるだろ。やり方がわからなかったら、門衛に聞けばいい。」
屈辱だろう。
晋太郎はもし自分が言われたらと戦々恐々の思いに一度口を閉じた。
予想通り耳の先まで真っ赤にしている二人の小童は、晋太郎が立ち上がるとすぐパッと踵を返して行ってしまった。
―…嫌な目をする。
尻尾をまいて逃げたくせに、最後に投げた視線には単なる敵対心ではおさまらぬような激しい憎悪を感じた。
ふうっと藤堂が息をつく。
「ああいう気質の奴は、伸びないんだよね。あいつらすぐやめるよ。」
藤堂の瞳から怒りが終息する。
だがまだキリキリと目尻が尖っていた。
「やめるったって、法度が。」
「うまく逃げるんじゃない?死ぬタイプじゃないしね。」
「藤堂さんはひいの言葉、よく使いますね。」
「外交では相手の言語を知ってる方が有利だ。」
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