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病室へ移されると、安元君は医師の話しを聞きに行き、病室には僕と小野君の二人きりになった。
真っ白な部屋で小野君を見ていたのに涙は出てこなかった。
泣きたい時ほど涙は出てこないんだ。
目を閉じている小野君は少し疲れて眠っているようで、なんだか僕は素直に悲しくなれなかった。
きっと本当に、安らかに寝てるんだ。
最近仕事が忙しかったから。
僕の為に料理をしていたから。
だから彼はちょっと疲れて寝てるだけなんだ。
そうだよな、
「小野君……っ」
声優とは思えないようなかすれそうな声はふいにゾッとする程虚しく響いた。
いつもは暖かかった筈の小野君の冷たい手をとって、そっと見つめた。
指は料理で失敗した時のものか、傷だらけだった。
やっと気付いたのに
何で時間はもとに戻らないんだろう
小野君が居ないともう僕は息も出来ないみたいだ。
小野君は僕にとって空気みたいな存在なのに。
時間が戻ったら僕は小野君を抱きしめてあげなかったこの無力な両手を切り落とすのに、なんで……っ!?
小野君の指が、微かに僕の手をなぞった。
小さな小さなサインに僕は敏感に反応した。
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