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あの事故の日から一年。彼の命日に、彼女はビルの屋上から身を投げた。まるで祈りを捧げるように。彼の後を追って、彼女は死を選んだ。
彼女の死を悼む葬列の中に僕は居た。涙は出なかった。丁度一年前と同じように、僕は会場を後にした。
そして、偶然というのは重なるものらしい。先客がそこにいた。
そこに立っていたのは、よく知った顔だった。僕は久しぶりに会ったその人に声をかける。
「やあ、久しぶり」
「あっ……。うん……久しぶり」
声をかけられて驚いたのか、短く声を出した。僕は苦笑いをしつつ、話し出す。
「亡くなった彼女、やっぱり一年前の彼を追ってなのかな?」
「どう……だろうね。多分、そうだと思う。その子にとって、その人は何よりも大切だったから」
「そっか」
それきり僕らの会話は途絶えた。無言のまま、その場に立ち尽くしていた。彼女を失った世界は、それでも歩みを止めることなく進んでいる。それはきっと、一年前の彼女にとってもそうだったのだろう。
そしてこれからは、また違った時間が変わらず流れていくのだ。
僕の頬に雫が滴り落ちるのを感じたとき、隣の彼女が口を開いた。
「ねえ」
「うん」
「ずっと、傍に居てくれたの……?」
「……うん」
気づけば、彼女の声も震えていた。堪えることなんて、もう出来なかった。
「ずっと、傍に居たよ……」
その言葉だけを交わして僕らは二人、互いを抱いて泣きじゃくった。僕にとっては数日ぶりの。彼女にとっては一年ぶりの再会。
「会いたかった……会いたかったよ……!」
「うん……うん……」
背に回した手にぎゅっと力を込める。もう、知らない世界はどこにもなかった。
一年ぶりに感じる温もりを確かめながら、僕らは静かに、唇を重ねた。
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