ある一年の記録

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 その日、僕は彼女の後ろに付いて葬式に行った。僕と彼女が二人で暮らし始めて、数日が過ぎた時だった。  棺の中を見る。彼女と過ごした時間の中で何度か見たことがあった顔があった。  死因は交通事故だった。目の前で眠る男の体は、彼女の目の前で撥ね飛ばされたのだ。彼女はずっと泣いていた。僕が声をかけても、彼女は嗚咽を洩らすだけだった。  それが見てられなくて、僕はそっとその場を抜け出した。外には先客が居たらしく、彼の葬儀に参列した人の話が聞こえてくる。 「可哀想にな……亡くなった彼、あの娘とこんな小さい頃から一緒だったのに」  こっそり顔を出して様子を伺う。小太りの中年男性がそう言っていた。あの娘とはきっと、彼女のことだろう。  男性の友人であろう、それを聞いた細身の男性は答えた。 「まだ若いのにな……あの子たち、いつも二人一緒に居たんだろう? つい最近、彼女が嬉しそうに彼の話をしていたのが信じられないよ……」  そこまで聞いて、僕はその場を後にした。聞かなければ良かったと後悔した。やりきれない気持ちのまま会場に戻る。  火葬が終わり一日が終わっても、彼女の泣き声は止まることはなかった。  一週間が経った。  彼女は相変わらず塞ぎ込んでいた。そんな彼女の姿を見ていると、僕も辛かった。  いくら話しかけても、いくら励まそうとしても、彼女は僕を見てはくれない。僕の声も届かない。  二人だけの部屋は、知らない世界になっていた。  一ヶ月が過ぎた。  それだけの時間が過ぎても、暗鬱とした雰囲気はなくならなかった。外へ出掛けると、彼女は努めて明るい顔を見せようとしていたけど、部屋に戻ると嘘のように沈み込む。  僕と彼女が過ごす部屋で、僕だけが彼女の時間から外れていた。彼女に言葉が届かないのを悟った僕は、一人で部屋を出た。  季節が変わっても、僕にはもう風の暖かさを感じることは出来なかった。  半年が過ぎた。  僕は彼女を見守ることにした。彼女は彼の死に呪縛を受けている。責任を背負い込んで、自分を責める日々を送っている。  違うのだ。彼女は悪くなんてない。でも、彼女はそれを理解しても否定してしまうまでに、優しすぎた。  だから、僕は見守ろうと思う。彼女が自分を許し、一人立ち出来るようになるまで。  傍に居て、ずっと。  ──そして、一年が過ぎた時。  彼女は、自殺した。
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