【複雑な乙女心と新たな予感】

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 連日のうだるような暑さが嘘のよう。  空気を入れ替えるために少し開けられた窓からは、湿度の低い、実に清々しい風が吹き込んでくる。  この前衣替えの為に付け替えた秋冬用のカーテンも、どことなく心地よさげにふわりふわりと漂い。待ち焦がれた涼しさを堪能し、同時に、秋の香りを私の部屋へ運んでくれた。  だけど。 「ねー、もう一回言って?」  身長が150にも満たないチビで童顔。はたから見て中学生。下手したら小学生と間違われること度々。  だけどれっきとした高校二年生の私、真山流香(まやま るか)は、そんな清々しい秋の香りをじっくり堪能出来ない状態でいます。  いえ、ある意味『秋の香り』を堪能していますが。 「……あう、えっと……か、かか、か……」 「聞こえねーよ先輩。ほら、もう一回。ちゃんと」  ピンクのドット柄に着色されたラグ。  その、フローリングの真ん中に敷かれたお気に入りの家具の上で私は組み敷かれていた。  それというのも、さっきから蜜よりも甘そうな声音でおねだりしてくる人物に押し倒されてるからですね。 「ねー流香先輩、お願い。もう一回、俺を名前で呼んで?」  少し熱を帯びている吐息が私へ降りかかると共に、いい匂いも彼から発せられてくるのを感じた。  途端、私の顔が熱くなってしまったのは当然の結果です。 .
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