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「か、かか……」
彼の名前を言ってしまえば、この状態から抜け出せると分かっています。
でも、こんな状態だからこそなかなか言えないし、ましてやずっと『秋月』って呼んできているから思うように口も動かない。
恥ずかしさと照れの上塗りも上塗り。
それが、今私の身に起きている現状。
だけどいい加減痺れを切らしてきたらしい秋月が、遂に強行手段へと打って出る。
それまでかろうじて息がかかるぐらいだった距離をぐぐっと縮め、鼻先をくっつけてきた。
いつキスしてもいいように。
ニヤッと不敵な笑みを浮かべながら。
「ちゃんと言って? じゃねーとチュー百回の刑」
何それ!?
あんたは私を羞恥心で爆死させる気ですか!?
ていうかこれはもう脅迫に近いんですけど!
それで仕方がなく……と言ったら語弊になりそうだけど、意を決して私は彼の名前をおぼつかない口で言った。
言わないと、いつまでもこの体勢が続きそうだったから。
でも、秋月が突き付けてきた条件は全く意味を成さないことを、この直後に知る。
「か、か、楓! ――むぐぅ!?」
名前を告げたと同時に塞がれる私の唇。
ちゃんと秋月を名前で呼んだのに、私は彼にキスをされてしまった。
まるで食べ物をついばんでいるかのような秋月のキスは、それでも物足りないのか、しまいには舌でこちらの唇を妖しくなぞってくる。
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