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まぁ、こんなことを本人に言ったらきっと調子に乗って、更に羞恥心に見舞われそうな感が否めないから絶対に言わないですけど。
「…………楓」
聞こえるか聞こえないかの小さい声で、私はまた秋月の名前を言った。
だけどそれをちゃんと聞きとってくれたらしい秋月は、もう何度目かのおねだりをしてくる。
その度にまた口を開く私。
「先輩、もう一回」
「……楓」
「へへっ」
私に名前で呼ばれるのがとても嬉しいらしく、子どもみたいに破顔した秋月は、このおねだりをこれからもずっと続けて欲しいと言ってきた。
「流香先輩は俺の彼女で、俺は先輩の彼氏だからさ、名前で呼び合いたい」
くぅ~んと子犬みたいに瞳を揺らしてる秋月。
そんな彼へ胸がキュンとなった私は、ごくごく自然に。当たり前のように了承することが出来た。
「う、うん。分かった」
「やった! 先輩ありがとう! 大好き~~っ!」
私が首を縦に振ったのを認めた秋月――じゃなくて楓は、尻尾をぱたぱたと振る幻覚が見えるほどの歓声をあげ、私に抱き着く。
それだけでは飽き足らず、すりすりと頬ずりしてきては「ね、ね、早速呼んで?」とせがんできた。
って、ちょっと待った!
早速も何も、ついさっきまで言ってたはずなんだけど!?
あんたにとって、ここからが『スタート』なの!?
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