855人が本棚に入れています
本棚に追加
/229ページ
でも、ズキズキ痛む良心に負けて、ついに振り返ってしまった。
「何? 何か分からないことあった?」
捨てられた子犬を連想させる濡れて潤んだ瞳と目が合い、尚一層良心が痛む。
「俺、昨日……」
悲痛な面持ちで苦しそうに声を絞り出す佐藤くん。
嫌な汗をかきながら、何事もなかったかのように平静を装い声をかける。
「昨日?」
『何もなかった。
昨日は何もなかった』
呪文のように頭の中で繰り返し、繕った笑顔を顔面に貼り付け首を傾げる。
『私は何も聞いてない。何もされていない』
無言で訴える。
最初のコメントを投稿しよう!