4/17
855人が本棚に入れています
本棚に追加
/229ページ
でも、ズキズキ痛む良心に負けて、ついに振り返ってしまった。 「何? 何か分からないことあった?」 捨てられた子犬を連想させる濡れて潤んだ瞳と目が合い、尚一層良心が痛む。 「俺、昨日……」 悲痛な面持ちで苦しそうに声を絞り出す佐藤くん。 嫌な汗をかきながら、何事もなかったかのように平静を装い声をかける。 「昨日?」 『何もなかった。 昨日は何もなかった』 呪文のように頭の中で繰り返し、繕った笑顔を顔面に貼り付け首を傾げる。 『私は何も聞いてない。何もされていない』 無言で訴える。
/229ページ

最初のコメントを投稿しよう!