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「ん? 何?」
若菜はニヤニヤした顔を隠しもせずに振り返った。
「多分……見られた。佐藤くんに」
「ああ。そういや、かなり接近してたもんね」
若菜は口に手を当てて軽く頷いた。
そうか。だからあの時固まったのか。
うわ、何か気まず……。
「……ふっ。ふふふ。そっか。なるほどね」
「何? 急に」
黙ったままだった若菜は何を思ったのか、突然笑いだした。
「いや、本当に鳳院さんは流石よね。
だって、ぱっと見は分からない。だけど、近づけば分かる。
なんて……何だか意味ありげよね?」
そう言って若菜は、より一層楽しそうに笑いながら歩き出してしまった。
呆然と立ち竦む私の脳裏に浮かぶ文字。
まさか――――。
『佐藤避け』
ですか?
私の問いかけに答えてくれる筈もなく、街路樹に止まるセミはただ平坦な鳴き声を繰り返すだけだった。
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