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「上條さん、あの……」
パソコンに向かい、黙々とデータの入力をする私に、背後から控え目な声が掛けられる。
振り向かなくても分かる。
この頼りなさそうな声は、「彼」だ。
一つ小さく息を吐いて仕事用の顔で振り向くと、口を挟ませないように一気に話し出した。
「あ、丁度いい所に!
今呼ぼうと思ってたの。
発注してた備品がたった今届いたから、倉庫に片付けに行ってもらえる?
それが終わったら、広報の矢田さんにこの書類渡して、営業一課の間さんにこれを。
じゃあ、お願いね」
にっこりと微笑んでくるりと背を向ける。
顔、引きつってなかったかな?
妙な緊張感の中一気に話し終えて息をつく。
そしてこっそりと背後の様子に意識を向けた。
背後に立つ彼――佐藤くんは、まだその場から一歩も動いていなかった。
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