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「ここではなんだし場所を変えようか。悪いが少しついて来てくれないか?」
柔和な顔をしたその人は微笑みながら催促する。今更拒否をするわけにもいかず、頷くことしか出来なかった。
それを確認すると、ついてこいと云わんばかりに背中を見せて歩き出した。数歩遅れて僕もまた歩いていく。
歩いている道中に会話はなく、気まずくはあったけど気にするほどではない。足音だけが通路に響いていた。
行き先を告げられぬまどんどんと進み、エレベーターを使って上がったりした。気の所為か人の気配も少なくなってきた気がする。それほど辺鄙(へんぴ)な場所へ来たということなのか?
そんなことを考えていると前にいたその人が突然立ち止まる。無意識に足だけを動かしていた僕も慌てて止まった。
立ち止まった場所は扉の前。それより奥は通路が存在していなかった。どうやら目的地に着いたらしい。入る為に必要なセキュリティを解除し、自動で扉が開くと僕の方へ向きを変えた。
「いきなり連れ出して済まない。しかし誰にも話を聞かれたくないだろうと君のことを思ったつもりでここに来た。さぁ、入ってくれ」
先にその人が入ると廊下には僕だけが残された。狼狽するしかないこの現状をどうしたらいいのだろうか。いきなり知らない人に来てくれと言われて着いた所はなにやら凄そうな場所。
帰りたい気持ちが膨らむが諦めて今だ開いたままの扉を通って中へ入る。
開いた時同様自動で扉も閉まった。さて、もう引き返せないぞ。
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