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「…戻りますか、部屋に?」
「雪斗の気が晴れたなら」
それに、と総司は付け加えた。雪斗とは約束がある。今此処にいない雪斗の姉のような人について、何よりも気になっている筈だから。
「…総司さん?」
「菊さんのこと、知りたいですよね」
顔付きが一変した。物凄い変化だった。雪斗は素早く立ち上がった。もう随分と昔の事のように思うが、たった数日前のことなのだ。
「知りたいです」
「…あなたには、少し辛い話になるかもしれませんね」
二人で部屋に戻り、湯浴みもして、全てのことを終わらせ、二人は向き合った。だが中々話し始めない総司を不思議に思い、雪斗が見上げると、腕を引かれ強く抱き締められた。
「ど、どうしたんですか?」
「このまま、聞いて下さい」
心なしか、その腕は震えていた。きっと、雪斗にとって、先程言われた通り余り良い話しではないのだろう。いつも、総司は、雪斗を守ってくれた。だが、今度は、総司の話しが雪斗を傷付けるかもしれない。だから、きっとそれを心配してくれている。
「わかりました」
「……私たちは、菊さんが間者だと、ずっと気付いていました。あなたが来る前から」
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