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「此方側としても、もう戻って来ることはないと思っていましたよ」
「…ごめんなさい」
「貴方のせいではありません。私たちの不祥事です」
雪斗は知らなかっただけ。だが、雪斗にとって、その知らないは大きい。菊がどんな気持ちで、客として来ていた雪斗に接していたのか。
あちら側にいた日々を悔いるわけではない。だが、少しでも菊たちのために何か出来たのではないかと考えてしまう。ここの人たちは自分の気持ちを伝えることについては、本当に不器用だから。
「明日、会いに行ってきます」
「はい。そうしてください」
「だから、一つだけ教えて下さい。菊姉を、再び受け入れてくれますか?」
総司一人に聞いても、決まることはないと分かっている。でも、雪斗にとって、総司が賛成してくれるなら、何よりも心強い味方になる。
「私は、賛成です」
「それなら、いいです」
身体の力を抜き、総司にもたれかかり目を瞑った。まるで羽毛に包まれているかのように心地よい。桜舞の過去を視て、高熱を出して寝込んで、本当に終わるかと思った。
「あなたは、あなたのしたいようにすればいい」
「はい…」
「愛していますよ」
何故かその言葉は『大丈夫』と言っているようにも聞こえた。まるで魔法のようだ。言葉一つで、こんなにも安心出来るのだから。
もし、菊に会いに行き、拒絶されたらと考えると、心に影がさす。この時代に来た時から、ずっとお世話になっていた人で、兄弟もいなく、母を早くに亡くした雪斗にとっては、菊は憧れだった。
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