---真実---

4/14
前へ
/122ページ
次へ
「此方側としても、もう戻って来ることはないと思っていましたよ」 「…ごめんなさい」 「貴方のせいではありません。私たちの不祥事です」 雪斗は知らなかっただけ。だが、雪斗にとって、その知らないは大きい。菊がどんな気持ちで、客として来ていた雪斗に接していたのか。 あちら側にいた日々を悔いるわけではない。だが、少しでも菊たちのために何か出来たのではないかと考えてしまう。ここの人たちは自分の気持ちを伝えることについては、本当に不器用だから。 「明日、会いに行ってきます」 「はい。そうしてください」 「だから、一つだけ教えて下さい。菊姉を、再び受け入れてくれますか?」 総司一人に聞いても、決まることはないと分かっている。でも、雪斗にとって、総司が賛成してくれるなら、何よりも心強い味方になる。 「私は、賛成です」 「それなら、いいです」 身体の力を抜き、総司にもたれかかり目を瞑った。まるで羽毛に包まれているかのように心地よい。桜舞の過去を視て、高熱を出して寝込んで、本当に終わるかと思った。 「あなたは、あなたのしたいようにすればいい」 「はい…」 「愛していますよ」 何故かその言葉は『大丈夫』と言っているようにも聞こえた。まるで魔法のようだ。言葉一つで、こんなにも安心出来るのだから。 もし、菊に会いに行き、拒絶されたらと考えると、心に影がさす。この時代に来た時から、ずっとお世話になっていた人で、兄弟もいなく、母を早くに亡くした雪斗にとっては、菊は憧れだった。 .
/122ページ

最初のコメントを投稿しよう!

94人が本棚に入れています
本棚に追加