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だからこそ、二人で真っ向から話したい。ずっと守り、助けてくれた菊に、今度は雪斗が恩返しをする。もう、何も出来なくて後悔して、事が終わった後に泣くことだけはしたくない。
「…私も、私も愛しています」
「はい。もう寝なさい。疲れたでしょう?」
確かに身体はもう指一本動かせないくらい重く怠かった。身体を総司に預け、雪斗は目を瞑った。
目蓋の裏に、あの時に見た桜の花びらが舞っていた。とりあえず、市村のことは出来ることはした。あとは、市村がどうするか本人が決めることだった。
もう一つは、桜舞のことだった。きっと、桜舞は蒼黎のことを覚えている。だが、蒼黎はそのことに気付いていない。ならば、雪斗が余計なことをしてはいけない。
だが、この刀を折れば、二人の魂は開放される。そうとわかっていても、いざ折ろうと決意すると、桜舞の悲痛な叫びに心が揺れる。あれ以来、蒼黎は声も姿も現さなかった。
「総司さんも…寝ましょう?」
「そうですね。湯浴みをしてきなさい。待っていますから」
渋々総司から身体を離し、雪斗はフラフラしながら部屋を出て行った。
そして、出て行った時よりも眠たそうな表情を浮かべて戻ってきた雪斗を残し、総司も湯浴みを終えた。
「ほら、おいで」
「ん…はい」
布団を上げ雪斗を招くと、雪斗は猫のように総司に身を寄せた。頭の下に腕を通し、優しく抱き締めると、気持ちよさそうに目を閉じた。
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