---真実---

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襖の向こうに気配は感じる。菊がそこにいるならば、顔を見なくても、言葉を届けることは出来る。 「菊姉、そこにいますよね?」 「……何しに、きたの…」 「話を、聞いてもらいに来ました」 返事はなかった。だが、雪斗は構わなかった。雪斗が伝えたいものは変わらないのだから。ただ、それだけを伝えに来たのだ。 「…菊姉、最初…本当言うと、怖かった。全部が。新撰組も、総司さんも、土方さんも、近藤さんも、隊士の人たちも。母がいなくなって、父が荒れる…なんてこと、私以外の沢山の人も経験がある…私は…恵まれていると思います。だけど、やっぱり怖かった」 この時代では特に。女が男に逆らわないのはあたりまえのことだから。心の奥底に沈めた闇色の記憶の箱。沢山のことをその中にしまった。開けてしまえば、雪斗は溢れ出したモノに捕らわれてしまう。 「正直、元のあの時代で、そのまま死ねれば良かったと思ったこともあります。もう、辛い思いはしたくないって、なんで私が、って思いました」 あの頃、雪斗は限界だった。空雅にもみきにも支えられていた。それでも、一人であの家に帰るのは苦痛で仕方がなかった。父に怯えるのにも、疲れていた。 .
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