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この時代に来れたことは、奇跡だ。あの時、猫を助けず、あのままの生活を続けていれば、きっと雪斗は壊れていた。
沢山の人たちが、身元もわからない雪斗を迎えてくれた。その人たちが、雪斗にとっての心の支えでもあった。そして、その中でも、菊は特別だった。
「…だから?…だから何だっていうのよっ!もう、帰って!そんな話し聞きたくないわっ!」
「…っ菊姉…では、では何故、鉄君を守ったのですかっ!」
「うるさいうるさい!」
襖の向こうから聞こえる声は、確かに雪斗を拒絶していた。それでも、雪斗はここで引くわけにはいかなかった。
「菊姉っ!」
「あんたなんて…あんたなんかと出会わなければよかった!」
その言葉に、雪斗は動きを止めた。しん…と、その場に静寂が訪れた。ドンッと、目の前の襖が、叩かれる音がした。
「…っ…」
「なんで…なんでっ…」
何も、言えなかった。何も。動揺していたのかもしれない。今口を開けば、情けない声しか出ない気がした。
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