94人が本棚に入れています
本棚に追加
雪斗は、そっと目を閉じた。唇を噛み締め、襖に額をくっつけ、祈るように囁いた。
「あなたが…新撰組に戻るために、私という存在が邪魔になるのなら、私が消えます。だから、どうか…お願いします。戻ってきてください。あなたの帰りを望んでいる人たちがいます」
ゆきこがやって来る前から、ずっと新撰組を影から支え続けていた菊。誰よりも、彼らを近くで見ていた人。
何の返事もなく、今日はもう無理かと、額を離した時、スパンと目の前の襖が開き、怒りの表情を浮かべた菊がいた。
そして、手を振り上げて、呆然と
菊を見上げる雪斗の頬を叩いた。
「なんでっ…なんでそうやって、すぐに自分が引こうとするのよ!欲しいものがあるんじゃないのっ?そんな簡単に捨てていいのっ?」
「…き、く姉?」
目を瞬かせる雪斗の胸元を掴み、菊は何かを必死に訴えるように、大事な何かを授けてくれるように、口を開いた。
「自分の大事なものを、そんな風に、ずっと手放して、これからも歩いていくのっ!?」
「っ!…で、でも…」
「そんな軽いものじゃないでしょう!重たくても、その重みが、あなたをずっと、ここに留めてくれてるんでしょう?なら、しがみつきなさいよ!」
菊の言葉は、ストンと胸に落ちた。
.
最初のコメントを投稿しよう!