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大切な物をたくさんしまい込んだ宝箱。そのどれもが、手放せない重みを持っていて、一つでも無くせないものだった。
「ねぇ、ゆきこちゃん。逃げないで。大切なら、その手から、手放さないで」
膝をつき、目線を合わせて、菊は雪斗を抱き締めた。それは、良く知る懐かしい温もり。
「か、帰って来て欲しいです…お願いします…また、一緒にご飯作って、お洗濯して…皆さんのこと起こして…皆さんで、お花見しましょうよ」
菊の胸元に顔を埋め、雪斗はその背中に、恐る恐る手を回した。菊は、拒まなかった。そして、自分の着物に縋り付くように抱き着く雪斗を守るように、更に深く抱き込んだ。
「そうね。いつかまた、そんな日が来たらいいなって思ってたの。ありがとう、ゆきこちゃん。迎えに来てくれて。帰ろうか」
「っ…はい!」
誰よりも、雪斗よりも、彼らを理解し支えてくれる人。この人にだけは、いつまでも勝てない気がした。
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