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今日雪斗は、暇を貰い市村と共に町に出ていた。最近は、ゆっくり町を見る時間もなかったので、同じように暇を貰った市村を誘ったのだ。
「いやぁ…賑やかですね」
「鉄君は、町に出るのは初めてですか?」
「そういえば…そうかもしれません」
思えば、新撰組に入隊してから、町に出たことはなかった。元々、小姓をやりかくて入隊したかったわけではない。暇さえあれば道場に通っている。
「じゃあ、今日は楽しみましょうね?」
「はい」
「とりあえず…何処に生きたいですか?」
「え?あ、雪斗さんが生きたい所でいいです。俺、全く分からないので」
悩むように目を伏せた横顔を見上げ、次に辺りを見回した。雪斗は、年齢の割に年上に見られることが多い。
一つ、厄介なことは雪斗は自分の容姿について、全くの無頓着ということだ。中性的な顔立ちに、甘い微笑みに見惚れる女性は少なくない。
「鉄君?どうしたんですか?」
「いや。何でもないです」
身長は少し小さいが、スラリとした手足とその眼差しを向けられると、男の自分でもドキリとする。
「じゃあ…鉄君。少し行きたい所があるんですが…いいですか?」
「はい」
雪斗に案内され、着いた先は小間物屋だった。賑わっているようで、沢山の人が溢れていた。
「こ、此処ですか…?」
「入りずらいですよね。待ってますか?」
「い、いやっ…は、入ります」
何故雪斗はそんなに普通に入れるのだろうか。慌てて店内に入ると、予想通り女人で溢れていた。何人か男性もいるのだが、やはり居心地が悪そうだ。
少し歩きにくい店内を、なるべく雪斗から離れないように歩く。だが、ふと顔を上げると何故か、雪斗が通ると、女性が皆道を譲るのだ。全員顔を赤らめて。
「………」
「鉄君?どうかしましたか?」
「い、いえ…」
簪を手に取り、選ぶ雪斗の横顔は真剣そのもの。そういえば、以前雪斗が屯所の前で女人と抱き合っていると噂になったことがあった。
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