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「とりあえず、みたらしと、餡蜜と…鉄君は何がいい?」
「俺は、黄粉とあんこで」
「はいよ」
席に案内され、やっと一息ついた二人。そして、何故か雪斗の隣には空がいた。注文を訊いた奥平が去り、空は不思議そうに市村を見た。
「雪斗、この子は?」
「鉄君。副長の小姓だよ」
「えっ?土方さんの?凄いねぇ。初めまして、私は空。雪斗の友人です」
「市村鉄之助です。土方副長の小姓です。雪斗さんには、いつもお世話になってます」
お互いにぺこりと頭を下げ、一応自己紹介は終わったようだ。雪斗は、そんな二人を見ながらお茶を呑んだ。
「雪斗はまた無理してるんでしょ?」
「そんなことないって。今日は、一日休み貰ったから、此処に来れてるわけだし…」
「まぁ、そうなんだけどさ」
顔色も悪く、少し辛そうに見えるのも、きっと雪斗自身気付いていないだろう。何故、誰も休ませないのかと、一瞬怒りが湧いてきたが、雪斗たちの大切な人だからと思い直した。
「心配してくれてありがとう」
「辛くなったら、いつでも言うんだよ?」
「うん。大丈夫」
少しすると、奥平が注文の品を持ってやってきた。そして、空の頭をお盆で軽く叩いた。
「あだっ!?ちょ、鋼さん何するんですか」
「お嬢ちゃん。菖蒲さんが来る前に戻ったほうがいいぞ。そのうち角生えてくるぞ、あれ」
「……い、ぞうさん…」
稔麿たちの所へいたとき、まだ、全員が揃っていたころ、以蔵にだけは“お嬢ちゃん”と呼ばれていた。懐かしい思いが胸に蘇ってきた。
「雪斗さん?どうかしましたか?」
「あ、いえ。何でもありません」
市村は何も知らない。知らなくともよいことだ。何でもないと、首を横に振り雪斗は運ばれてきた団子を口にした。
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