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都会でもなく、田園風景が広がる田舎でもないほどの町の片隅に、一軒の喫茶店がある。
3階建て以上の建物は数えるほどしかないような駅前のロータリーから商店街に入り、昼間でも薄暗いような路地を右へ曲がる。
閉店した商店のシャッターや、果たして営業しているのかわからない飲食店が軒を連ねる細い路地を抜けると、錆びた看板に「喫茶思い出」と書かれたそれがあった。
シャッターの降りた両隣の店のお陰で、うっかり通りすぎてしまいそうな存在感のないドアを開けると、ドアの上部に設置されている鈴の音が来客を告げた。
店内を見回すとカウンター席が4つ、その向こうにボックス席が2つと縦に長い構造だった。
カウンターの隅には一体いつの時代の物か判別が難しいような雑誌が積まれ、中を覗けば無愛想な店主が客に見向きもせず小さなテレビを観賞している。
そんな店内を見渡して、高岡陽一郎はいつもの馴染んだ席を目指し歩を進めた。
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