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「…最優秀は18番、高岡陽一郎」 その瞬間、若干16歳で世界のトップクラスのピアニストの仲間入りを果たした。 コンクール全員の審査を終え客席で祈るように待ち望んだ自分の名前を呼ばれ、全身の血が沸き立つように興奮した。 「やった!!やったよ!!陽一郎最優秀賞だよ!」 隣に座る彼もその年齢よりも幼い顔に歓喜の色を浮かべて肩を抱いてくる。 表彰の為ステージに登らなければならないが、全身が興奮や喜びからくる震えのため立ち上がれない。 そんな様子をまた笑いながら、彼は陽一郎の腕をとる。 未だ声もあげられない程喜びと達成感に支配されている陽一郎を立たせ、背中に渾身の平手を打つ。 「おめでとう、陽一郎」 自分の事のように喜ぶ彼の笑みを背中に、陽一郎は世界への一歩を踏み出した。
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