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「……」
さてさて、こんな意味不明な現実逃避じみた描写ばっかしてるのには、訳がある。
さっきからずっと続くこの重苦しい沈黙は、何も俺だけのものではない。
つまり、
「……」
「……」
この豪奢なテーブルを挟んだ向こう側に、俺の他にもう一人座っているのだ。
肩までかかる長さの、絹のように滑らかな黒髪に、少し吊り目気味の碧眼。
すっとした目鼻立ちの延長線上には、潤った朱色の唇。
まるで日本人形がそのまま歩いているような、綺麗な女性が、そこにいる。
この人こそが、貧乏学生の代名詞たる俺を、こんな場違いにも程がある場所に連れてきた張本人である。
「……」
「……」
にもかかわらず、この女性は連れてきた用件も話さず、優雅に食事を摂っている。
前述した通り、貧乏学生たる俺は、こんな豪華な食事に手をつけられる訳もなく、待てをさせられている犬のように、ひたすら沈黙を保ちつづける。
……この宙ぶらりんな状況、どうしろと?
すると、俺の視線に気付いたのか、女性はふと顔を上げた。
「……食べないのか?」
「……」
いや、食えるか。
何て言う勇気もなく、ただ相手の発言を待つ。
──……もう一度問おう。
どうして、こうなった──
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